2006年07月18日

頭上の敵機

前回の「太平洋の翼」に続いて、再びマニアックな映画評です。


敗戦国日本が1963年に制作した「太平洋の翼」。


個人的には非常によくできた映画だと思いますし、ストーリーも実話を基にしながら単なる反戦映画(邦画にありがちなパターン)になっておらず、楽しめるものでした。


今回ご紹介する映画は、王道のハリウッド映画。


そう。戦争に勝った国がたっぷりとした予算を使って作った戦争航空映画です。



それが「頭上の敵機」。


頭上の敵機

頭上の敵機



  • 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
  • 発売日: 2005/04/08
  • メディア: DVD


1949年 20世紀フォックス制作。


監督:ヘンリー・キング


出演:グレゴリー・ペック、ディーン・ジャガー、ヒュー・マーロウ


1949年のロンドン。


米陸軍第8空軍918スコードロンの副官だったストーバル少佐(ディーン・ジャガー)が戦後にロンドンを訪れ、骨董屋で918スコードロンゆかりの品を見つける。


当時の基地であったアーチドベリーを訪れたストーバル。


今はただの牧草地となった基地跡に佇み、数年前の過酷な日々に思いをはせる。


こんなシーンからこの映画は始まります。


画面は全編モノクロ。タイトルバックの書体に古き良き映画の雰囲気が漂います。


1942年。アメリカ第八空軍はヨーロッパ戦線の唯一の米軍部隊として第二次大戦に参加していた。


918スコードロンは昼間精密爆撃の任務についていたが、度重なる出撃とドイツ空軍の執拗な迎撃に損害が増大。


クルーの士気は低下。


隊長のダベンポート大佐は人情家で部下からの信任も厚い。


だが人情家ゆえに非情になれず、作戦失敗の原因追求がどうしても甘くなる。


司令部から指揮官として不適と判断され更迭される。


後任のサベージ准将(グレゴリー・ペック)はダベンポートの親友だが、部隊を厳しく統制することで士気の向上を図る。


前指揮官とのあまりにかけはなれたその言動に部下から異動願いが続出するが・・・・。


この映画を深く鑑賞するためには当時の時代背景を知っておくと良いかもしれません。


第二次世界大戦は1939年にドイツ陸軍のポーランドへの電撃作戦で始まりました。


イギリス・フランスはこの時点で宣戦布告していますが、アメリカはまだ参戦していません。


アメリカが第二次大戦に参戦するのは、1941年12月7日(アメリカ時間)の日本海軍による真珠湾攻撃からです。


1942年初頭の段階では、アメリカは太平洋中心に日本軍相手に戦っており、ヨーロッパには地上部隊を派遣していません。


唯一陸軍航空隊の中で第八空軍のみがイギリスに展開します。


当時イギリスはドイツからの侵攻・イギリス本土上陸作戦をイギリス空軍の活躍で何とか食い止めました(Battle of Britain=「空軍大戦略」という映画になっている)。


ようやくドイツへの反攻を企てていた頃で、昼間精密爆撃を米軍、夜間爆撃を英軍が担っていました。


昼間の爆撃は工場・軍需施設への精密爆撃には適していましたが被害も多く、当時全行程を護衛できる戦闘機も装備されていなかったため、より被害が増大していました。


そんな時代をこの映画は舞台にしています。


この映画のもう一つの主役はボーイングB17Fフライング・フォートレス(空の要塞)。


日本では本土爆撃や原爆投下で有名なB29が圧倒的に知られていますが、B29の一世代前の爆撃機です。


それでも4発のエンジンを装備し、4トン以上の爆弾を落とし、多少の攻撃では火を噴かない防弾を装備した重武装の爆撃機でした。


 


さて、この映画の前半は、サベージ准将がいかに部隊の士気を上げるか?人心掌握こなすかに力点が置かれ、ほとんど飛行シーンや戦闘シーンは出てきません。


第一次大戦に従軍はしたものの、高齢で実戦には参加せず部隊の事務仕事一切を仕切るストーバル少佐。


本職は弁護士という設定のこの人物が影に日向にサベージ准将を補佐します。


そしてこの「如何に部下の心を捉え、組織の士気を上げるか?」という一連の行動はまるでビジネス書の付録ビデオのようです。


猛訓練の成果が次第に出始め、実戦でも損害が少なくなり始める。


次第に部下達の信頼も芽生え、徐々に部隊全体の士気も上がってくる。


そんなときに下された命令は、初めてのドイツ本土爆撃(今まではドイツに占領されたフランス〜ベルギーへの爆撃)。


それは兵器に欠かせないボールベアリング工場への昼間精密爆撃だった。


行程も長く、対空砲火も激烈。ドイツ空軍の迎撃も熾烈を極めるであろうことが予測される。


そしてこの作戦にもサベージ准将は常に先頭に立って指揮官機に乗り込み操縦桿を握る。


後半になって、一気に戦闘シーン・飛行シーンが増えてきます。


驚くべきことは全て実写。模型も特撮も一切ありません。


映画の冒頭でB17Fが戦闘で傷つき基地に胴体着陸するシーンが有りますが、それも実機でやっています。壊れるっちゅうねん。


爆撃に向かっている飛行中に迎撃してくるドイツ戦闘機。


これも実写です。


当時の米軍機のガンカメラで撮影された映像です。


従って撃たれて火を噴き爆発するドイツ機が実写で画面いっぱいに広がります。


ドイツ側が撮影したと思われる映像も多数使われています。


被弾し尾翼を吹き飛ばされて、9人の乗員もろとも木の葉のように舞いながら堕ちていくB17。


対空砲火が直撃し、木っ端微塵になるB17もすべて実機です。


ただ、様々な映像を使っているため、アフリカ戦線と思わしきJG27(?)のメッサーシュミットMe109Eや、1945年当時と思われる迷彩のフォッケウルフFw190A、当時はまだ実戦投入されていないB17Gなどが映っています。


しかし映画本編がモノクロで撮影されていることもあって、実戦フィルムが違和感なく本編に溶け込み、とてつもない迫力を生み出しています。


このあたりは悲しいかな「太平洋の翼」の日本映画は足元にも及びません。


実際のストーリーがこの後どうなっていくかは、ご興味の有る方、実際にご観賞ください。


ストーリーは実に重厚で見た後に余韻が残ります。


この映画でストーバル少佐を演じたディーン・ジャガーはアカデミー助演男優賞に輝いています。


ただ、不思議なことに日本の戦争映画である「太平洋の翼」の方が明るい。


モノクロ映画ということもあるかもしれませんが、ハリウッド映画の「頭上の敵機」の方が重いですね。


余談ですが、この「頭上の敵機」はTwelve O'clock Highという原題ですが、そのままのタイトルでこの後テレビドラマ化(邦題は「爆撃命令」)されました。


 


他にB17が出てくる映画では、


スティーヴ・マックィーン主演、1963年製作の「戦う翼」


戦う翼

戦う翼



  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
  • 発売日: 2006/08/04
  • メディア: DVD



マシュー・モディーン主演の1990年製作。やはり実話をベースにした


「メンフィス・ベル」


メンフィス・ベル

メンフィス・ベル



  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • 発売日: 2006/06/02
  • メディア: DVD


などがあります。


どちらもお勧めですが、映像の美しさと観た後のさわやかさでは「メンフィス・ベル」が一般受けするでしょうね。


 


7月20日追記


B-17はこんな飛行機。


http://commons.wikimedia.org/wiki/B-17_Flying_Fortress


posted by Ryota at 08:58| Comment(16) | TrackBack(0) | 飛行機
この記事へのコメント
いや〜、ムダに年取ってるんで知らない映画ばかりですね(大汗)
しかし戦闘シーン・飛行シーンがすべて実写というのはすごいです。
それをうまく組み込むためにわざわざモノクロにしたんでしょうね。
また見たい映画が増えてしまった。
デジタルWOWOWでやらないかな〜。
Posted by mabo at 2006年07月19日 09:43
見た事があるかも・・・でもタイトル覚えていないです。(^^;
戦争映画は30を過ぎてから面白くなりました。心理的な描写が好きだったりします。「眼下の敵」とかの潜水艦映画も良い作品が多いですよね。
見た後爽やかというと・・・・兵隊ヤクザ?(笑)一部ですが戦争も出てくるフォレストガンプとか・・・あ、トム・ハンクスつながりでプライベート・ライアンも。d( ̄  ̄;)
Posted by moonrabbit at 2006年07月19日 11:48
らびさんぐらいオトナになったら観てみたいですね・・・(^^;
戦闘シーン・飛行シーンがすべて実写で、そのための全編モノクローム、というのはちょっと観てみたくなります
Posted by tamegorou at 2006年07月19日 12:26
戦闘シーン見てみたいです。
マックイーンがやけに若いですね。そちらも気になります。
Posted by masiko at 2006年07月19日 12:56
戦闘シーンがすべて実写というのはすごいですね。
これは見てみたいかも(^^。
Posted by haru_one_of_a_kind at 2006年07月19日 14:36
おぉ〜これも面白そうですね〜^^
ちょっと探してみようかな。。。
戦争モノの映画やドラマなら、「プライベートライアン」や「バンドオブブラザーズ」が好きです。これらはDVDそろえちゃいました^^;
Posted by うぃん at 2006年07月20日 01:06
>皆様。二回にわたるマニアックな話題にお付き合い頂き、本当にありがとうございます。

>maboさん。
ご訪問&コメントありがとうございます。
実際にはガンカメラの映像はやはり多少粗くなりますので、完全に違和感が無いわけではないんです。
でもそれはあくまでも意識して見ていれば・・・・ですから。
お薦めです。是非。

>moonrabbitさん。
ご訪問&コメントありがとうございます。
「眼下の敵」も名作ですね。これもいずれレビューしようかな。
確かに「潜水艦映画にはずれ無し」です。
いずれも心理描写を丁寧に描く戦争映画は名作に仕上がっているような気がしますね。

>tamegorouさん。
ご訪問&コメントありがとうございます。
実写フィルムを使うためにモノクロにした・・・ということではないかもしれません。
実際撮影時期は1949年で終戦後5年しか経っていません。
たぶん撮影技術・コストの面からもまだモノクロ映画が主流だったのかな?とも思います(「風と共に去りぬ」なんてもっと前ですがフルカラーですけどね)。
いずれにしても、そのお陰で非常にリアリティのある作品に仕上がっていますね。
今見ても充分楽しめると思いますよ〜。

>masikoさん。
ご訪問&コメントありがとうございます。
「戦う翼」は同年に撮影された戦争映画の名作「大脱走」と比べると、かなり暗めの作品です。
スティーヴ・マックィーンが性格ひん曲がった軍人を演じています。「大脱走」のマックィーン演じる“ヒルツ”と見比べると面白いかも。

>ハルさん。
ご訪問&コメントありがとうございます。
若い時期に見ても充分面白いと思いますよ。戦闘シーンだけでなく、人物描写も見所です。

>うぃんさん。
ご訪問&コメントありがとうございます。
映画のテイストとしては、どちらかというと「プライベート・〜」に近いかもしれません。
機会が有れば是非ご覧下さい。
因みに最近だと500円DVDでも商品化されています。
Posted by SWEET16 at 2006年07月20日 07:33
B17の映画キタ━━━(゚∀゚)━━━!!! 
オオー!「頭上の敵機」来ましたねー。 \(゚∀゚)/
B17といえば航空機関士コマンスキー軍曹が登場するドラマが懐かしいですね。子供の頃、平日夕方の再放送枠でやっていたのを楽しみに見ていました。B17のプラモも作りました。w (^ω^)b
ネットで調べましたところ「頭上の敵機」のテレビシリーズで、ABC制作「爆撃命令」というタイトルだったようですね。 ヽ(^∀^)
「メンフィス・ベル」は本当に大好きな映画です。何度見ても良いですね。 (・∀・)イイ
それからスティーヴン・スピルバーグの「世にも不思議なアメージングストーリー1話 最後のミッション」のお話も良いですね。好きです。w (・∀・)イイ

またイロイロ見てみたくなりました。SWEET16さんどうもありがとう。w (´∀`)ノ

(^ー^)ノシ
Posted by モッズパンツ at 2006年07月20日 07:53
>モッズパンツさん。
ご訪問&コメントありがとうございます。
「爆撃命令」は15年くらい前かな・・・・?
深夜テレビで再放送してました。確か2クールあって前半と後半で配役が違っていたような・・・・。
B17の模型はハセガワ1/72やレベル1/72、モノグラムの1/48なんてのもありましたね〜。
「世にも不思議なアメージングストーリー1話 最後のミッション」は機長役が若いケビン・コスナー!
小品ながら良くできた作品でしたね。
Posted by SWEET16 at 2006年07月20日 08:15
うむうむ・・・
なんかSWEET16さんの記事で見た気になってしまった( ̄口 ̄;;

あまり、戦争ものの映画って好きくないんですけどね・・・。
Posted by a_aki at 2006年07月21日 02:21
>a_akiさん。
ご訪問&コメントありがとうございます。
戦争映画は好き嫌いがわかれますよね。
特に女性は苦手な方も多いと思います。
因みに私はホラーがアウト。
「シャイニング」などは好きですけどね。
Posted by SWEET16 at 2006年07月21日 08:04
>ippan-bunka-..さん。
ご訪問ありがとうございました。
Posted by SWEET16 at 2006年07月21日 08:06
実写で戦闘シーンを構成しているんですか。
たしかにリアルです。・・・・っていうかそのままです。(^_^; イマハデキナイダロウナァ

ワタシの場合、眼科の敵 ん? 眼下の敵とかUボートなどの海事モノの方に目が行くのは元ヤマト好きだからでしょう。
頭上の敵機(眼下の敵と同時期?)観てみようと思います。ツタヤにあるかなぁ。
Posted by サダー at 2006年07月22日 11:50
JG27と言えば,アフリカエンブレム,エーミールのフィルター付きインテーク,そして忘れてならないのはアフリカの星マルセイユでしょうか。確か映画もありましたか。
1945年のフォッケと言えばA8/R2,JG300,その非常に親近感を持つエンブレム”ヴィルデザウ”を思い起こします。
343空同様,絶望的な戦況下で本土防衛に獅子奮迅した各JGの活躍を描いた,Luftwaffe版「太平洋の翼」を見てみたい気がします・・・。でもUbootの様にはいかないでしょうね。
失礼しました。
Posted by そらのしんぺい at 2006年07月23日 00:08
>サダーさん。
ご訪問&コメントありがとうございます。
海ものもおもしろいですね。
特に潜水艦がらみは密閉された空間での人間模様が映画には最適。
良い作品が多いです。
「眼下の敵」は名作中の名作。一度レビューします。

>そらのしんぺい さん。
ご訪問&コメントありがとうございます。
はじめまして・・・・ですね?
JG27、マルセイユと言えば名作ドイツ映画「撃墜王・アフリカの星」ですね。
実は残念ながら私も未見です。
DVD化はされているようですので、是非手に入れたい。
何せスペイン製とは言え、ホンモノのメッサーですから。

1945年当時の迷彩と記述したのは、ガンカメラの粗い映像から判断したためで、正確ではないかもしれません。

真後ろからの撮影ですからA8かどうかは定かではないですね。
もしかしたらF・G型の可能性も・・・・。

こんな感じでblogやっています。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。
Posted by SWEET16 at 2006年07月24日 07:57
「頭上の敵機」、「メンフィス・・」、これらは観ました。「頭上の敵機」は、著作権切れ版をやすく購入してしまいました。「戦う翼」は、見ていないような。「パールハーバー」だったか、、、ちょっと記憶が定かでないのですが、、、あれは、相当リアルだと感じました。ツッコミどころもある映画でしたが・・。ちなみに、高校の友人は、F-15乗りになっていたり、管制官がいたりします。あと、SWEET16 さんは、もしかしてMacintoshをお使いなのかなと推察したりしますが、私も相当にMacを使っていました。m(__)m
Posted by 旅人J_(wayfarer_j) at 2008年08月20日 21:05
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